◇◆ Formula 1 Test at Silverstone Circuit ◇◆◇ 19/Apr./2001


 幸か不幸か…(棚ボタその後編)...

結論からいえば、Ciroさんにはすぐ再会した。
「エディに会わせてあげるって言ったのに、もう帰っちゃったのかと思ったよ」
エディの写真を撮りたいといった私に、彼は交渉してやると   エディはファンサービスがあまり好きではない   申し出てくれていたのだ。
聞けば、エディはもうそろそろ出てくるという。
「これからエディのジェットでミラノに帰ってパーティーなんだ。そうだ、よかったら君も来ないか?」
ちょっとそこまで、というくらいの口調で彼は宣った。
……行けるわけがない。いや、行くのは簡単だろうが(何せ『エディの同居人』だ、女の子のひとりやふたり、そのへんで調達してくるのはざらだろう。←偏見?)、帰ってこられるという保証がない。彼もエディも、家へ帰るのだ。
「悪いけど、仕事があるから」
興味がまったくなかったといえば大嘘になるけれど、こればかりは頷くわけにはいかなかった。

エディは、彼の本で近親者が口を揃える『せっかちさん』との評判に違わぬ身のこなしで、私たちが待つ車   ジャガーXKR   のもとへ現れた。「早く来いよ」とCiroさんを呼びつけるなり、さっさと運転席に滑りこむ。Ciroさんに急かされて、私も慌てて近づいた。
「エディ、お願いがあるんだけど」
「サインなら駄目だよ、急いでるんだ」
テストがあまりうまく行かなかったのか、単に早く帰りたいだけか、エディは愛想のかけらもなかった。
「写真だけなんだけど、それでも駄目?」
「写真?…ならいいけど、早くして」
「わかった。どうも有難う。その代わり、サングラス外して笑ってくれる?」
「ああ、構わないよ」
そのときの彼の笑顔は、営業用とはまったく思えない(たぶん営業用だと思うんです。相当急いでたし、)やさしい表情で、女の子たちが騒ぐのも無理はないと納得するほどだった。シャッターが切れなかったのは、だから見惚れてしまったからだと思ったのだ、最初。
そう、よりによってこの瞬間に、カメラがバッテリー切れを起こしたのである。
「え、何、カメラにトラブル?」
途端、エディの表情が変わった。完全なる悪戯っ子のそれに。
「そりゃー運がなかったな。いやぁ残念。じゃ、写真はまた今度ね!」
軽くウィンクして、ジャガーを発進させたのだった。
…さて、この日の私は運がよかったのだろうか、悪かったのだろうか?(ちなみに、「今度」はいまのところ訪れていない)

それにしても、奇妙な縁もあるものだ。自分の性格は熟知しているから、後にも先にもあり得ない事態ではあるけれど、もし仮にあのとき「ミラノに行く」と答えていたら、どうなっていたのだろう。(笑)


蛇足ながら、このときのエディのとんでもない運転ぶりを少々。
彼のXKRはトランスポーターの間に停めてあったのだが、彼はそれを、まだ人々が行き交うパドックの中央通路に、いきなり急発進で突っこませたかと思うと、カウンターをあてて右折するなりけたたましい音をたてて急ブレーキをかけた。ちょうどそこにジョーダンのトランポが方向転換しようと巨体をうねらせていたからで、するとエディ、ものすごい勢いで“ぷっぷーっぷっぷっぷっぷーっっ!!”
絶対に拳で連打しているに違いないクラクションに、周囲のファンやスタッフは大ウケ。負けてないのがジョーダンのトラッキー(運転手)で、窓から乗り出し「うるせぇんだよ!」と怒鳴った。
エディは窓を閉めていたから、何か叫んだのかそうでないのかは判らないが、更なるクラクション連打でおかえし。
私のすぐ隣で、ジャガーの女性スタッフが笑い転げていたから、いつもこうなのかと訊いてみれば、「そうね、大抵こんなかんじよ」だそうだ。
くだらない応酬は、結局ジョーダンのトラッキーが道を譲って終わった。エディはまたもや急発進で、まだまだ人々が行き交うパドックの中央通路をかっ飛ばしていった。


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