◆◇ Visit to Michael Schumacher
Kart-Center ◇◆
● 想像と現実
田舎田舎と方々で耳にしていたから、それなりに覚悟はしていたけれど、これほどとは思わなかった。「なんにもない」、それが最初の感想。TVで伝えられる『皇帝ミヒャエル』の縁の地とは、とても思えない。
ショックの洗礼は、降り立ったシンドルフ駅のあまりのちいささから始まった。2本の線路を挿むようにホームがふたつ向かい合っていて、真新しい木の柵とささやかな駅名の札が、かろうじてそこが駅であることを示している。屋根もない、待合室もない、改札もない。道路から階段を数段上っただけの、そこがホームなのだった。駅名の札はホームにひとつだけしかなく、確かに目的地であることを確認するまで、不安だった。
階段を下り、線路の下を潜るトンネルを抜けたところで、また思案にくれる。…さて、どっちへ行ったらいいのだろう?(笑)
ケルン中央駅の書店で、近辺のおおまかな地理は頭に叩きこんできた。シンドルフ駅からカートセンターへ行くには、とにかく南下すればいい。南へ歩いて、大きな通りにぶつかれば、それが目指す“ヨーロッパリンク”のはず。その通りから先の道順は、カートセンターのホームページに載っていたから判る。
「とりあえず南へつきすすんでやれ」という大雑把さで、メモと地図を片手にまっすぐ駅前の道を南へ下ると、あらら、すぐに行き止まりだった。目の前は畑。どうしようもない。左右を見回せば、左のほうから車の行き交う音がする。その道ならヨーロッパリンクまで続いているだろうと予測し、そっちへ行った。結論から言えば、選択は間違っていなかった。ただし、えらい遠回りをしたことに後で気がついたのだが…。(最短ルートは【サーキット道標】をご参照ください)
夏の空は高く澄んでいて、キャミ一枚でも陽射しが汗ばむほど。ミネラルウォーターを呷りながらとにかく歩いた。何が参ったって、10分くらいの道すがら、人っ子ひとり会わなかった心細さと、水の味だ。ドイツではミネラルウォーターといえば炭酸水が中心のようで、おかげでよけいに喉が渇いてしまった。
◇◆◇
ヨーロッパリンクは、地図で見るほど大きな通りではない。日本でいえば、ちょっとすたれた田舎の国道のような印象だ。道行く人もまるで普通の地元民で、外国人など滅多に歩いていないのだろう、じろじろ見られ、いい気分はしない。
地図で見るかぎり、カートセンターは間近のはずで、つまりここは紛れもなくケルペン、ミヒャエルの『故郷』だ。まして、今日はドイツGP予選の日。フェラーリに21年ぶりの栄光をもたらした地元の英雄の、凱旋レースなのである。けれど、道にも建物にも行き交う人にも、『シューマッハー』の面影はまったく見られない。かろうじて、ヨーロッパリンクの交差点に“屋内カート場
右折”の案内表示があっただけだ。…旗のひとつくらいあってもいいものだろうに。
もしかしたら、自分はとんでもなく場違いなところに来てしまったのではないか? 漠然とそんなことを思い始めた矢先、だった。

畑のはるか向こうに、雑誌やネット上でたびたび見かけた白い建物をみつけた。目を凝らせば、壁に見覚えのあるチェッカー模様にMSのマークも見える。間違いない、カートセンターだ。
次の瞬間、私は人目も憚らず派手にふきだしていた。
…だって、だって、いっくらなんでもあんまりなんじゃないの?この環境ってば…。(笑死) →参照
しかし笑えるネタはこれだけでは終わらなかったのである。
なんとか気をとりなおして歩みを再開した私が、次に足を踏み入れるは、地図にその名も誇らかな、“ミヒャエル・シューマッハー通り”。…の、はずなのだ、が 。
まぁ、写真を見てやってくださいな…(微笑)
尤も、これはあくまで2001年7月の状態で、現在は博物館が開館しているのでもう少しマトモになっているかも。
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これがミヒャエル・シューマッハー通りだ!
(別ウィンドウが開きます)
…そんなかんじで半分馬鹿にしたような態度の私だけれど、ここは紛れもなくミヒャエルの育った場所。言わば、原点なのだ。一歩ずつ近づくにつれ、どうしても頬が緩んでしまう。走馬灯という言葉が脳裡に浮かぶ。
この頃になると、おそらくは同じ目的(カート場でF1中継を見る)なのだろう、何台かの車がカート場のほうへ向かうのに出くわした。またもや無遠慮な奇異の視線に晒されて妙に気恥ずかしかったけれど、もはやそれすら「やっと来たのだ」という感慨をつのらせる。そう、どうせここまで来たのなら、いっそ旅の恥はかき捨てるべし。