木曜日 10/10


快楽は金で買え…? 

今年の座席はS2。まっとうに就職できたことから、奮発した。
鈴鹿に行くと決めたときから、座席はここ、と決めていた。ドライバーを拝むことが目的ではない。私は目が悪いし、望遠レンズも持っていない。ただ、スタートとピットの動きが見たかった。
チーム全体がどう動いているのかということは、TVでは断片的にしか伝わらない。シルバーストーンのテストやF3などでぼんやりスタッフの動きを眺めていたのと同じことを、グランプリでやってみたかったのだ。

座席はLブロックの前から9列目。ちょうどウィリアムズとザウバーの境で、座るとピットの奥まで綺麗に見える。すでに各チーム作業を開始しているが、まだまだのんびりしたもの。
サーキットまで重い荷物を運んできた疲れがどっと押し寄せて、しばらくそこで休んだ。(情けないといえば情けないが、実は左肩痛めていて使い物にならないのに4日分の荷物担いで1.3キロ歩いたのは致命的でした。いや自業自得なんだけど)

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見たぞサーキット入り 

ラッキーとしか言いようがない。狙ってなどいないのに、出くわしたのは、ミヒャエルとDCのふたり。

ミヒャを見たのは、フェラーリピット前に行こうと試みてS2常設スタンドを出たときのこと。実はS2がふたつに分かれていることを知らなかったため、真正直にフェラーリピットを目指し、阻まれて踵をかえすという手間があったからこそ、のタイミングだった。
S2スタンド裏出口から坂をとてとて降りてきたら、なにやら駐車場のほうに人だかりがある。ああ、入り待ちか、と思って見れば、ちょうど着陸したヘリから誰か降りてこようというところ。
それほどの興味もなく眺めやり、ヘリに寄っていくふたりの赤いシャツを見た瞬間、そちらに向かって全速で走った。直感で誰か判ったのだ。チームメイトかもしれぬ、とは不思議と考えなかった。
ミヒャ現る。11:30頃。
左手に黒いバッグ、黒っぽい恰好。それだけしか見えないはずなのに、歩き方などで、やはりミヒャだ、と確信する。
いらっしゃい。長旅おつかれさま。明日からはがんばってね。

さて、このときかなりたくさんの人がフェンスを乗り越え彼の元に走っていった。みんな元気だなぁ、と暢気に感心(ある意味…)していたのは、たぶん愛の差ではなく、単に私がサインに興味を持っていないからだろう。そうか、みんなこういうところでサインをねだるのね。
「すげぇ執念…。」
隣に立っていた男性がぽつりと呟き、思わず顔を見合わせて吹きだした。


ミヒャはこのあと銀色のマセラティに乗ってホテルへ。1時間ほど後に、同じ車をひとりで駆ってパドックへ消えていった。
(このとき駐車場側に立っていれば、彼に手を振ってもらえた。私はS2入口側の日陰に避難していたため、それを歯軋りしつつ見送った…。)

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DC登場、12:45頃?
DCがサーキットにやってきたのは、それから1時間ほど後だ。
これまた偶然のなせる技で、しばらくフェラーリピット前にいたものの何のアクションもなく、あまりの暑さに閉口してスタンド裏に避難しようとしたときだった。
ばらばらばらというヘリの音に、もしやと思ってまた駐車場へ行ってみたのだ。
「誰ですか?」
「クルサードみたいですよ。」
んな馬鹿な。そんな幸運があっていいものか。
けれど降りてきた人影はたしかにDCのようで、駆け寄ったファンに囲まれていつまでもサインに応じている姿は、シルバーストーンで見た彼を彷彿とさせた。
 
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種々の逢瀬は旅の醍醐味

相方が木曜の夜遅くに鈴鹿に着く予定だったので、この日はずっとひとりだった。そのため、幾人か普段ネットでお世話になっている人に遊んでいただく手筈になっていた。
お約束していたのは数人なのだが、それぞれがお知り合いやお友達を同道なさっていて、おかげさまでとても楽しい一日となった。

集合場所は、主にフェラーリのピット前。ピットでの動き   そもそも、ドライバーがコース下見に出てくるのが皆さんお目当て   を気にしつつ、話が弾む。
それぞれが様々なネタを持っているから、ご挨拶の後はさながら情報交換会だ。ちょうど某H社の知人・S氏から、台風発生のニュースが私の携帯に飛びこんできて、ひとしきり騒ぎになった。
もっとも、レースの行方を案じてではなく、単純に雨になると観戦が面倒だというのが理由。

ただ、雲が出ればいいなとは個人的に思った。
英国のサーキットでは陽射しは常に天の恵みで、曇りや雨だと夏でもその寒さにフリースが必要になるのだが、その感覚でいた私は何の準備もしておらず、酷い目にあったのだ。
ぎらぎらと照りつける陽光は、秋というより夏のそれに近いような気がした。
ようやく日が暮れたときには安堵したが、今度はスタンドを吹きすぎる風の冷たさに閉口する羽目になった。
寒さを噛みしめながら、警備のおじさんに追い出されるまでなんとなくスタンドに粘っていた。
各チームばたばたとシャッターを閉めていったが、たったひとつ、ルノーのピットだけは、私達が帰る段になっても煌々と灯りが点っていた。

グランドスタンドを出ると、売店のところでホンダがこじんまりとしたパーティをやっていた。
いろいろなチームや関係者がごっちゃになっているなかに、JPMの姿を発見したのはこれまた偶然。
楽しそうにお喋りをしていた彼は、やがて友人に呼ばれて、慌しく去っていった。それが、ブラックアウトに乗るためだったと判ったのは、数分後、御機嫌で戻ってくる姿に出くわしたからだ。
珍しくサインを頼んでみた私の野望は、ジェットコースターに負けたらしい。
ファンパブロ、あなた幾つよ?(笑)

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今年の宿は平田町だったので、またしても荷物を担いで延々歩いた。肩は死にかけていたが、無駄金は使いたくなかったし、同行する知人もいたので、それほど長くは感じなかった。
更に、宿に辿りついたときにはへとへとだったのに、久しぶりに顔を合わす友人たちと妙に盛りあがり、酒まで入って結局寝たのは朝方という有様だった。
無理無茶無謀、これもまた、年に一度のお祭りの楽しみ。(後先考えないとも言う)
SUZUKA 2002