プロローグ
鈴鹿に行くのは、1999年以来、3度目だった。
10月13日は祖父の命日で、夕方には東京に戻っていなければならないことは判っていた。
迷わず、木曜入りを決めた。
ミヒャエルに会うことは期待していなかった。
グランプリは彼らの仕事で、真剣勝負の場だから、ファンサービスが後回しになるのはあたりまえだと思っている。あるいは、シルバーストーンのテストで一回、間近で声を聞く機会に恵まれ、それでもう満足したのかもしれない。
彼が仕事をしている姿をこの目でみることさえできれば、それでよかった。
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朝7時3分東京発のひかりに乗って、一路西へと向かう。
名古屋で快速みえに乗り換え、さらに四日市で伊勢鉄道に乗り換えて、鈴鹿サーキット稲生の駅で降りた。初めてのルートだが、どうせ一人の気楽な旅、いちばん時間が無駄にならないものを選んだ。
伊勢鉄道のちいさな車内には、同好の士がちらほらいた。いずれも駅のあまりのちいささに戸惑っている様子だったが、なんの、ケルペンに比べればちゃんと駅の恰好をしているだけ立派なものだ。レースの後には来たいとは思わぬが。
ガードをくぐってややも歩けば、友人が教えてくれたとおりサーキットランドの観覧車が見えた。
空は、秋晴れ。
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木曜のサーキットは、思ったより人が多かった。
英国で私が通ったどのサーキットでも、こんなに人がいるのは珍しかった。あらためてグランプリという名の効力を思い知る。年に一度のお祭り。世界でたった17回しか開催されないお祭りが、日本にやってきたのだ。
そして、今年は私もその只中にいる。
準備におおわらわの通路をグラスタへと向かううちに、外から指をくわえて見ていた2年間の悔しさがぽろぽろこぼれて消えていった。
…ただいま。
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SUZUKA 2002
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