日曜日 10/13


決勝日、何時までならサーキットに居座れるか。鈴鹿行きを決めたときから、そればかりを思い巡らしてきた。新幹線の時間、乗り換えのタイミング、くどいほどシミュレーションをくりかえした。
死んでもスタートは見て帰る、というと大げさだが、それに近い思いは持っていた。レース全体の流れは、正直TVで見たほうが判りやすいけれど、スタートの迫力は別だ。ITVで観戦していたとき、シグナルが消えるまでの短い間、だんだんと高まっていく緊張が楽しかった。
それをこの身で感じたくて   グリッドの風景をいちどはこの目で見たくて、S2を買ったのだ。見ねば帰れぬ。
ぎちぎちのスケジュールのなかで、そこだけはどうしても譲れない一線だった。

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体調管理は大事です。 

朝から、会う人毎にお別れのご挨拶をくりかえす。なんだか始まってもいないのに妙なかんじ。
荷物はどうしようか迷ったが、大きなものは宿に残して、相方に送ってもらうことにした。体調がここにきて相当ひどくなっていた。鈴鹿にくる前もきてからも、自分の体の具合はわきまえていたが、月曜日が休日だったのでとりあえず棚上げし、後でまとめて帳尻を合わすつもりで夜更かしを続けたのが祟った。

フリー走行は、とてもじゃないが楽しめたものじゃなかった。昨日はあんなにきれいだと思ったエキゾーストノートが、喧しくて聞くに堪えない。まっすぐ起きていたのでは頭痛が我慢できず、日光を避けるように顔を俯け、爪先ばかりを見つめていた。もうどうだっていいから早く終わってくれ。
激しい頭痛が耳鳴りを伴いはじめ、そろそろ気分も限界だ、と思った頃、セッションが終わる。一も二もなく日陰に撤退した。
S2のスタンドの後ろには、仮設スタンドがそびえていて、その下が恰好の避難場所になっていた。奥まった通路にシートを敷き、膝を抱えて仮眠をとる。エキゾーストを煩いと感じたことが、自業自得ながらショックだった。心配してつきあってくれた相方は、隣で本を広げた。
プア〜!というホーンの音で飛び起きたのは、手元の時計が11時40分になろうかという時分。
スケジュールから考えて、少し早いがドライバーズパレードが始まったとしか思えない。慌ててふたり、荷物をまとめて避難場所から飛び出すが、パレードの先頭ははや1コーナーのあたりにいた。なんてこった!
呆然とする私たちの目の前を、最後の数台が悠々と通りすぎていく。カメラを用意する暇はなかった。

楽しみたければ体調管理は怠るな。手痛いしっぺ返しを喰らいます。
(あたりまえのことなんだけどね。それにしても巻きこんでしまった相方よ、許せ…)

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もっとも見たかったもの 

インテグラチャレンジカップの間はまた、昼食を兼ねて日陰にひっこみ、記念式典にあわせて座席に戻った。
席はちょうど列の中央で、レースが始まってしまうと抜けるのは大変なので、各マシンがピットを離れはじめたのを契機に、後方の通路に下がる。勿論、傍にいた運営スタッフの人には理由を話して許可を貰った。これがITVのレース中のユニフォーム愛の証?(笑)

ゲートオープンの15分前くらいから、ピットクルーたちは耐火スーツを着込む。取材陣も衣替えを終え、本戦前の情報収集に余念がない。見慣れた恰好のITVスタッフがひとり、ピットレーンを行ったり来たりしていた。テッド(ピットリポーター)だろうか。同じ頃、津川さんも目撃。
ダミーグリッドへのいちばん乗りは、琢磨のエンジニアたちだった。タイヤを運ぶクルーの、金髪の後頭部に染めぬいた日の丸が鮮やかだった。

最初にピットを離れたのはラルフ。グリッドに着くなりマシンを降り、クルーと何か話しながらさっさとスーツを腰までおろす。話し相手は、最初はスタッフとだったのが、やがてどこかのTV局の取材へと変わったが、その間ずっと、スーツは腰というかお尻の位置。
「あれ、ずり落ちないかねぇ…」
すぐ前の席のグループが、しきりに心配していた。(笑)
手の位置に注目!ちなみにここはグリッド中央です(^ ^;)クルーと話してますが、よーく見ると…あれ?脱ぎながらでも話はできる…そんなところを1ショット。はい、用意ができました。…えっインタビュー?(ヤだなぁ…)
お手柔らかに頼むよ…。(後ろからにーちゃんが見てるしね!)
制限時間いっぱい、まで一呼吸ほどのタイミングで、いよいよ王様登場。ざわつくグリッド上をするすると、音もなくすり抜けてポールポジションへ。ここからだとミヒャエルの観察は難しい。
タイヤで見えないが、カメラが狙っているということは…ラルフの真後ろ、琢磨のグリッドには、カメラが群がっていた。今日の主役は彼、ということか。日本のメディアはともかく、海外のプレスは彼をどのように報じるのだろう。

目の前で綴られゆく雑多な風景。そう、これが見たかったのだ。
雑然としていながら、すべてがきちんとケジュールに沿って進んでいく、どこか不思議な空間。レースというのが、関わるひとりひとりの手作りであることが、いちばん伝わってくる時間。私の、大好きなひとときだ。
SUZUKA 2002