土曜日 10/12


そして、再会。 

ラルフが姿を消すなり、ふたり揃ってその場を後にする。小走りに人を掻き分けて(完全に流れに逆行していた)S2仮設スタンドまで戻った。インタビューはまだ、始まっていない。ほっとした。
しかし、赤旗中断のため、この日の予定は大幅に狂ってしまっている。S2に戻って30分もすると、あたりを薄闇が覆いはじめた。もしかすると、このままインタビューも中止されるのではないか。あるいは、別の場所でもう収録してしまったとか。
次第に頭をもたげる心配を押さえつけ、祈るような気持ちで待ち続けていると、電話が鳴った。相方だ。ブーランジュリーで休んでいる、と言っていたのをすっかり忘れていた。
「ごめん今フェラーリ前でミヒャ待ちなんだ」
『奇遇だねぇ、私もS2にいるんだよ』
マクラーレンの前にいるという彼女に、仮設スタンドのほうまで来てもらうよう頼む。ミヒャエルが姿をあらわしたのは、その直後だった。

時刻は5時半。インタビュアーをひきつれたミヒャエルは、ピットウォールまでやってきて、なにやら説明しているようだった。それから、ピットロードにしつられられた席に腰かけた。笑っていた。
私は、思いもよらなかったほど動転していた。ミヒャエルだ、ミヒャがいる、動いてる喋ってる笑ってる…!
間近で見るのがはじめてでもないのに(シルバーストーンのパドックで1メートルというのが最接近記録)、完全に舞いあがっていた。肉眼ではちゃんと見えてたのに〜っっ
どれだけ私が焦っていたかという証拠が、→の写真。「夜間モード」に切り替えるのをすっかり忘れていたため、照準が作業中のフェラーリピットに持っていかれてるうえ、手ブレが激しく、とても見られたものじゃない。猫に小判、真咲にデジカメ。

  +++

ミヒャエルの周りには、いまだピットロードをうろついていた観客やメディア関係者やチーム関係者らが、たちまち人垣をつくった。わずかに見え隠れする間隙をついてシャッターを押すが、なかなかタイミングが合わない。
「あーっまた外した!」
「もう邪魔だよアンタたち、充分見たでしょ、いいかげん場所譲ってよ!」
届くはずもない文句をぎゃんぎゃんわめいているところへ、相方が到着した。手招きで呼ぶと、ひょこひょこやってきてピットのほうを覗きこむ。
撮影用の証明が邪魔!
「どこ?」
「あそこ。人垣に囲まれてるでしょ」
「……見えるの?」
「ときどきね」
「…で、いつまでここにいるの?」
「インタビューが終わるまで!」
即答した私に、相方は呆れを含んだまなざしをくれ、「…私、帰るよ?」
ファインダーを覗いたまま見向きもせずに「ああうん帰って」と答えた私は、さぞかし人非人に見えたことだろう。(夜道を女の子ひとりで平田町まで帰れって言ったわけですから…汗)

結局、ミヒャエルは20分ほど(推定)いて、帰っていった。去り際、名前を連呼するスタンドへ一瞬振りかえり、大きく右手をあげた。歓声があがった。

  +++

そのままスタンドに居座って、ネットのお仲間と話した。ミヒャエルとの出会い、ファンとしてのスタンス、葛藤、ネットという発信媒体について。こういう機会でもなければ、話さないかもしれない話を、とりとめもなく続けた。ややあって、警備のスタッフがスタンドを閉めるというので、渋々席を立った。
白子へ出る彼らとは、帰り道が違う。お腹はすいていたが、お先に失礼することにした。

夜道を、鼻歌を歌いながらひとり、宿まで歩いた。真っ暗だったけれど、寒さも怖さも感じなかった。楽しかった。幸せだった。
暗かったけれど、見難かったけれど、それでもあのひとはすぐそこで笑っていた。シルバーストーンでは彼の笑顔を見ることはかなわなかった。でも、今日、見れた。だから、胸の奥が暖かかった。
ふだん口でなんと貶そうとも、やはり私は彼のことがとても愛しいのだった。
SUZUKA 2002