++ ヨーロッパGPオーダーについて ++



6月25日の「ヒトリゴト」を見てくだされば判ることだが、正直に言って私はレース中、上位ふたりの順位の入れ替えはあり得ると予測していた。だから、ルビーニョがチェッカーまでトップを守りきったことに、チームがそれを許したことに、素直に驚いた。
ドライバーズランキングでミヒャエルを追うウィリアムズ勢は今回2台とも揮わず、ここで10ポイントを確保せずとも逆転はありそうにないけれど、なにしろ石橋を叩きに叩いて渡るひとたちだ。実行するかどうかはともかく、計画にはあるだろう、とみていた。

こういった立場からレース後にニュースをかき集めた私が、2日後あっさり前言撤回を宣言したのには、以下のようなわけがある。


私はふつう、レース前にいろいろな情報を集めることがない。レースそのものを楽しみたいという気持ちもあるし、枝葉末節にとらわれて大局を見失うのをおそれるからでもある。
だが今回は、基本データを事前に頭に叩きこんでおくのも必要かも、と反省した。
上位各ドライバーのポイントランキングを正確に把握していなかったのは失敗だった。フェラーリ陣営の欲深さはよく知っているのだから、コース上でのパフォーマンスのみに満足する彼らではないことも理解しているべきだった。

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レース後の記者会見でのやりとりの中で、次のような場面がある。

Q: You said at first that the situation is different to Austria and after that you said: 'Am I champion? Not yet.' Isn't the situation same?
MS: We are slightly different in that the points difference is quite substantial now although the championship is not finished. I think in Austria it was race number five(six), and now we are in race number nine. I think that justified the situation.
(F1-LIVE:Post race press conference at Nulburgling)

これを目にしたとき危惧したのは、オーストリアの一件をフェラーリが正当化する根拠を、エースドライバー自らが薄めてしまっているのではないか、ということだった。私は、フェラーリの『レース哲学』を、「ポイント差など、数学的に勝つまでは無意味、だからそれまではできることは何でもやる」ということだと理解していたから、A1ではオーダーが必要でニュルでは必要ない、という理屈には納得がいかなかったのだ。
それがひっくりかえったのは、トッドの次のコメントを読んだからである。

"Team tactics is part of Ferrari policy and the team tactic this time was to let Rubens win. …(中略)… Today's result was important for Rubens’s battle in the Championship as well. …(中略)… We feel that we can start to try to built a certain position for Rubens in the drivers championship as well"
(F1-LIVE: Todt justifies Ferrari 1-2 in Rubens' favour, 25/06/02)

ここでトッドははっきり、「これからはルーベンスのことも考えてやれるようになった」と言っている。この発言は、フェラーリの狙う獲物がはっきり定まった発露、と解釈できる。
「ミヒャエルによるダブルタイトル」(今期のペースならここにルーベンスの協力は特に必要ではない)から、「ドライバーズ1-2+コンストラクターズのパーフェクト・タイトル」へと照準を切り替えた、と考えれば、今回オーダーを出す必要はなかったとの弁明も、一応の筋がとおるのだ。両天秤にかけてより益のあるほうを取った、ということだ。

ミヒャエルがこれを意識していたかどうかは判らない。レース直後の彼のコメントは、やはり微妙に矛盾して聞こえるからだ。ただ事前の取り決めどおり、『2回目のストップ終了時点で後続に1分以上の差をつけていたら、そのときの順位を最後まで守る、それまでは自由にレースをしてよし』という条件を守っただけのような気がする。
彼個人の思いがどうあれ、ミヒャエルはチームをいちばんに考える。チームプレイに何度も助けられた身としては、いまさら否定もできない。彼のコメントは苦しい言い訳にしか聞こえなかった。

ファンの端くれらしく、多少彼を弁護するならば、彼は決して最後まで諦めてはいなかった。終盤、ミヒャエルがぴったりルビーニョの背後についたのは、仮に自分のようにルビーニョがミスを犯したときのことを考えて、に他ならない。
ほんの少しの隙でよかった。ミヒャの準備はできていた。しかし、会見でミヒャ自身が語ったように、「彼は僕のような失敗は一切しなかった」。
それが勝負の分かれ目となった。

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ちなみに、一部で言われているような『FIA召喚を睨んでのパフォーマンス』の可能性は、私は考えていなかった。
ロスが口にしたように、「オーストリアの一件で学習した」のは事実だろう。だがそこで屈するほど、今のフェラーリ陣営はかわいい肝っ玉をしていない、というのが私の認識だ。今回のそれはあくまで「敢えて危険な橋を渡ることはあるまい」という程度の判断で、もしタイトル奪取に必要なのであれば、彼らはきっとやってのけたはずである。
これもまた天秤がどちらに傾いたかという話。

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