ラルフと琢磨の接触。
琢磨は、レース中に無茶をしがちな印象がある。それは一方で彼の思い切りのよさと負けん気の強さの象徴でもあるから、決して悪いことではないが、「少し落ち着け」と声をかけたくなることもしばしばだ。たとえば今回のことにしても、たまたま自身はダメージを受けなかったからよかったが、下手すりゃ双方お陀仏、運が悪ければ自分が宙を飛びかねなかった。いちかばちかの賭けもレースでは時に必要だけれど、避けられるリスクならば避けるにこしたことはない。我を張って譲らずに相手が引いてくれればいいが、そうでなかったとき、すっとブレーキを踏む器用さは欲しい。これから上を目指すことを考えれば、まるでF3でも見ているようだった今回のレース振りは、いただけない。
スチュワードが琢磨の主張を全面的に取り上げたことについては、トレメイン(インディペンデント)が“afterwards
the stewards curiously gave the German the rap on the knuckles. Unfathomable.”と書いている。ラルフが接触事故に絡むことが多いのは事実だとしても、今回のは、私も精々お互い様とみた。
これは邪推だが、ラルフのみが叱責(‘reprimand’――3回貰うと一戦出場停止)をくらった理由のひとつに、彼の「弁解下手」があるのではないだろうか。昨年ドイツGPでバリチェロと絡んだ際も、ラルフは「スタートに集中してるときに他のドライバーの動きに気を配ってなんかいられない」と言い切り、これが「周囲の安全に配慮するというドライバーの責任」を果たしていないとして非難された。対する琢磨は弁が立ち、今回も立て板に水のきれいな説明をしている。ただ一つ言わせて貰えば、レース後半のDCとのバトルで接触がなかったのはDCがブレーキを踏んだからでもある。
とはいえ、そこは言った者勝ち。きちんと説明できる人のほうが、できない人より益を被るのは当然だ。ラルフは、接触事故と係り合いにならぬよう気をつけるのはもとより、いざやらかしてしまったときの言い訳の方法を、兄さんかマネージャーにでも教わっておくといいかもしれない。
ホンダの「強さ」はほんものかもしれない。開幕3戦を見て、思う。
とてつもなく速いわけではないし、絶対に壊れないわけでもない。凡ミスがゼロというわけでもなければ、他に威圧感を与えるほどの怖さも感じない。それでも、開幕以来のパフォーマンスは非常に安定している。
現在のポイント制度下において、コンスタントな走りこそが何より「強」いことは、昨年のマクラーレンや今期のルノー(現時点でコンストラクターズ2位)が証明するとおり。それに何より、いま風は彼らに吹いている。このままいけば、初優勝は無理としても、総合成績ではかなりいいところを狙えるのではないか。
ただしそれには、シーズン通してのたゆまぬ開発が欠かせない。今はそこそこいい位置につけていても、他が巻き返してくれば元も子もない。フラビオ・ブリアトーレは3月発売のF1Racing誌上で、“Don't
expect too much of us in the first three races. We'll be better once the
show is back in Europe”と語っている。
ルノーのマシンは今のところ目立った速さを見せてはいないが、専門家の目から見て、やはり今期も空力No.1だとの評判。苦手とみられたバーレーンでも、巧くダウンフォースを削ってスピードを稼ぎつつ、大きく車体バランスを崩すことはなかった。セッティングの纏めかたがいいのかもしれない。アロンソの走りにはまだ粗削りな部分が目立つが、逸材なのは疑いない。コンスタントに走るようになれば、上位にとっても脅威となる。
マクラーレンが現状を打破できないかぎり、このふたつのチームが三番目の椅子を争うことになるだろう。その戦いは、場合によってはフェラーリとウィリアムズの「二強」対決にも影響を及ぼす。私は別にさほど愛国心に溢れてもいないし、とくにミヒャエルの七冠を切望しているということもないから、ゆったり構えて、この椅子獲りゲームの行方を楽しむとしよう。