"When Schumacher,
and Ferrari, get it right - breaking record that has stood for almost
half a century - the world would do well recognise a rare talent at work.
Catch him while you can."
Jonathan
Legard, BBC motor-racing correspondent
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これほど苦しむとは正直思っていなかった。
勝っても敗けてもいい、と言いながら、心のどこかで敗けるわけがないと思っていた。
何せ、差は9ポイント。キミには優勝しか残されておらず、なおかつミヒャエルが入賞できないという条件付だ。当然ミヒャエルは勝つつもりで来日するだろうし、イーブンの環境ならばフェラーリ/BS/ミヒャに分があるというのが大方の予想で、私もそれを信じていた。タイトル争いが最終戦まで縺れこんだ場合のよくないジンクスは、過去の話、と棚上げした。
キミにさほどの覇気を感じなかった所為もあるだろう。これがJPM相手なら、もしかして、と危ぶんだかもしれぬ。
予選の直後、友人に電話した。「どうしよう。」
どうしようもないことなど判っている。スターティンググリッドは既に決まっており、泣いても笑っても明日は14番手からスタートするしかない。それでも、こぼさずにいられなかった。今年の予選方式では充分に考えられた結果ながら、まさに落とし穴に嵌った感じだった。
「どうしよう、どうしたら勝てる?」
数年前ならばたぶん無条件に信じられた後方グリッドからの挽回を、しかし今回私は信じきれなかった。どうしても目の前で優勝してほしいのに、まずもって無理、と判断する理性が恨めしかった。
縋る思いで目前を駆け抜ける紅いマシンを追った。7周目、あるべき順位に姿を見出せず、頭をがんと殴られた気がした。最悪の結末が脳裏をかすめる。チームメイトの手助けでタイトルを得るなんて、到底受け入れられない。ましてやこんなところで掻っ攫われるわけにもいかない。形振り構わぬミヒャエルの走りに食い入りながら、ただ願った。
それでも、悪夢のようなトラブルの嵐は、彼の夢を絶つまでには至らなかったのだ。
彼も、決して屈したりしなかった。
予定調和。終わってみれば、そんな言葉が脳裏をよぎる。
今期のミヒャエルには他を圧倒するような強さはなかったし、かといってキミ&マクラーレンにも戴冠して当然の力は見られなかった。ウィリアムズは序盤の出遅れに足をとられ、最終的には自滅した。あえて誰かをとるならば、ミヒャエル。勝利の女神もそんなふうに王者を選んだ、のかもしれない。
タイトル確定後、宵闇に包まれたスタンドで乾杯したフェラーリ銘柄のスプマンテ(イタリア産のスパークリングワイン)は、ちょっぴりほろ苦かった。
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どれほど足掻いてもみっともなくても、望んだものを手に入れるためにすべてを賭けるその姿は、うつくしい。
たった1ポイント。そこまでするかと呆れるひとも、非難の声もあるだろう。けれど、そこまでするのがミヒャエル・シューマッハーというひとで、そういうひとに私は惚れたのだ。
あの1ポイントは彼が自らもぎとった勝利、こころゆくまで味わってかまわない。
"Hard Racing?
Or too hard? Either way, it is a style of driving that Schumacher has
made his own."
Andrew
Baker, The Telegraph
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