ヨーロッパGPの雑記
May29 2003
 
 

"I got a bit of criticism but, you see, even a bad driver can win a race, so...,"


Ralf Schumacher, at Post-Race Press Conference -European GP


ああ、神様はまだ決してこのひとを見捨ててはいないんだ。神様というものが実際にいればの話ではあるけれど、ふとそんな思いが掠めた。
ラルフは勝たなくてはならなかった。噂など、と嘯くことは簡単だけれど、世間は意外に噂に弱い。とくに悪評が、その先のレース人生にずっとついて回るのは、彼の兄さんが実証済みだ。
接近戦を演じたわけではないから、不平屋を完全に黙らせるには不十分かもしれない。それでも、今回も彼はミスなく走りきった。できるだけ第1スティントを引っ張って、マージンを稼いだ。記者会見でみせた笑顔は、この勝利のもつ意味を彼自身とてもよく理解していればこそのものだ。
キミのリタイヤのおかげなのだからラッキーな勝利だ、という声もある。それには、私はこう答えよう。「運も実力のうち」と。

かわいいラルフ、お誕生日おめでとう。今年のきみは本当に成熟した走りをしていて、見ていてどこか誇らしいよ。あとはもっとたくさんの運を引き寄せるだけ。兄さんなんかに、負けるなよ。

データ参照>>>ATLAS F1
43周目、ダンロップカーブ

97年のヘレスを彷彿とさせる、と表現した記者が数名。たしかに、右回りのヘアピンで左側のグラベルにとっ掴まってホイールスピンしてる姿は、記憶の中の悪夢の光景と似ていたかもしれない。
しかし今回のこれがなぜ騒ぎの元になるのか、私にはわからない。よくあるアクシデントのひとつ、とその瞬間に思ったし、今でもそうだ。どうも、あのヘレス以降、人々が接触事故にカリカリしているような気がする。それとも私が気がつかなかっただけで、それまでもそうだったのだろうか?
ジェームズ・アレン(ITV)が、「これは'モーターレーシング'であって'モーターフォローイング'ではないのだから」と書いているが、私はそれに賛同する。

グラベルからの脱出にマーシャルの手を借りるのは、今年からルール改正で可能になった。・・・ということは、私も事故の瞬間は知らなかったが、すぐにジョナサン・レジャード(BBC)が説明してくれた。
「(グラベルに嵌っても)エンジンさえかかったままなら、マーシャルの手を借りて復帰してもOK、という考え方は、レギュレーション上可能だ」
F1のスポーティングレギュレーション第150条には、こうある。『レース中にマシンがコース上で停止した場合は、安全上、ただちに当該マシンを移動させなければならない。ドライバーが自分で危険な場所から移動できないときは、マーシャルには当該ドライバーを補佐する義務がある。これらの援助行為が、エンジンの(再)スタートに関わるものであり、当該ドライバーがレースに復帰した場合、そのマシンは失格となる』
危険回避のためであれば今回のようなグラベルからの復帰をも妥当と認める、という解釈は全チーム共通とみえ、どこからも抗議は出なかったし、知人も当然の顔をしていた。しかしどうやら地上波は、このルール変更を認識していなかったらしい。

ミヒャエルとJPMの差は、ミヒャの2回目のピットイン(L36)の時点では9.8秒あった。しかし、その5周後にJPMがピットインを済ませてコースに復帰してくると、差は2.1秒まで縮まっており、次の42周目には0.3秒となった。この7周の間の平均ラップタイム(それぞれピットインのロスタイムを含む)は、ミヒャエルの1:38.607に対して、JPMは37.241、1秒以上も違う。
ところがミヒャエルの第2スティントのラップタイムは、むしろJPMよりも速い。それぞれのスティントでミヒャエル自身のタイムを比較すると、やはり1秒の開きがある。
考えられる理由はふたつ。まず、2回目のピットストップを終えてミヒャエルが出てきたのが、ルノー2台とDCがバトルしている後ろだったこと。それから、第3スティントのタイヤ・セットがセッティングに合わなかったという可能性だ。

タイヤに関しては、昨年とまったく逆の状況で、MIのほうが断然いい、と関係者が口を揃える。知人の話を引用すると、
「BSは各サーキットの路面状況を読み違えている。症状としては、とにかく縦横のGに対する耐性がなく、加減速やコーナリング時にグリップが得られない。またコースの状況によって、アンダーとオーバーが交互に出てしまったりもする。勝敗の鍵はパッケージではあるが、タイヤのもたらすグリップ不足は、空力だけでは補完しきれない」
ということだ。これを裏づける証言が、記者会見でのJPMの発言にある。
「彼はストレートではかなり速かったけれど、コーナリングはとても遅かった」

この週末のフェラーリのパフォーマンスはウィリアムズやマクラーレンに完全に劣っていた。原因がおそらくタイヤにあり、それ以外の部分   すなわちマシンそのものとドライバーの能力   では未だフェラーリがトップ、というのが、パドックの常識のようだ。BBCはミヒャエルの序盤のペースから、「少し重いのでは」と予測し、あてが外れると今度は「さて、どういうことだろう?もしかしたらロスは我々の知らない何かを知っているのかもしれないな」と疑り深かった。前述のアレン(ITV)などは、「ロスがあれほどJPMに憤りを表したのは、自分たちではどうしようもない問題にだいぶ苛立っていたからではないか」と勘繰っているほど。
ちなみに、レース後AUTOSPORTがミヒャエルとロスにそれぞれインタビューしているが、ロスの発言に対するコメントを求められたミヒャエルは、次のように答えている。
「ロスがどんなふうに言ったのか、僕は実際に聞いたわけではないから、コメントはできない。たぶん、貴方が聞いたのとはちょっと違うニュアンスで聞こえるかもしれない。だからまずは彼自身の口から聞いてみないと。ただ、僕自身の見解では、逆の立場なら僕もまったく同じことをしたと思ってるよ」


デイビッド

事故自体は、仕方なかったと諦めてもいい。ただ、「あーたはどうしてこう星回りが悪いの!」と地団駄踏みたくはあるが。
とはいえ周囲はそれほど寛容ではないらしい。ついにメディアだけでなく、チーム内部からも「なんとかしなさい」と叱咤の声があがった。願わくば、これがラルフのときのように、状況を好転させるきっかけとなりますように。


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