ハンガリーGPの雑記
August18 2002
 

データ参照>>>f1.tagheuer.com


1コーナーを2台の赤い車が先行したとき、結果はほとんど決まったようなものだった。
レース中は頭をカラッポにしておくのが主義だけに、最中はとくに何も考えず冷静を保っていた私だが、チェッカーの瞬間に記したメモには、「この先ずっとこいつを見せられるのか。冗談じゃない。」とある。
こいつ、が指すのはちなみにフェラーリの独走ではない。ミヒャの本気でない走り、のことだ。一発ファステストを叩き出して「遊んでただけ」と笑う、それは彼の本質をよく表していてほほえましいエピソードかもしれないが、私は笑う気になれなかった。
ルビーニョの総合2位が確定するまで、最短でもあと2戦を要する。私個人の理想はウィリアムズとマクラーレンが少しでも多くポイントを拾うこと――ぶっちゃければDCにはせめてあと一勝してもらいたいし、2位の座はラルフにやりたい――なのだが、一方で最終戦以前にきっちり総てにカタをつけておいてほしい気もする。
鈴鹿でミヒャエルが勝つのを、私はまだ一度も目のあたりにしていないのだ。


* もしコケなければDCはキミに勝てたか?

結論から言えば、おそらくは無理だっただろう。
第2スティントのふたりの走りを、周回タイム差とギャップとで比べてみた。たしかに37周目から8周にわたり、DCは1周につき5/100秒〜1/10秒ほどキミより速い。コースアウトしてからも、すぐに挽回につとめている。地上波で川井ちゃんがレポートしていた「タイヤの空気圧を変えた」作戦が当たったのかもしれない。
だが、54周目にキミが前周回を1.5秒上まわる自己ベストを出したあと、DCは一度もキミを上回れないまま、2回目のピットストップに向けてキミから離されていく。仮に単純計算でコースオフのタイムロスを無視したとしても、双方ストップを終えたときにはキミのほうが3秒ほどのマージンを保って前にいる算段になる。しかもデビは、セクタータイム、スピードすべてにおいて、キミに先を越されているのだ。
もちろん、これは机上の空論だから、あそこでデビが踏んばっていれば結果は違ったものになっていたかもしれない。マシンを転がすのは人間で、人間は心理状態におおきく左右されるものだ。オーバーランはデビの心理には直接影響しなかったかもしれないが――直後のペースはコースオフ前のそれより速い――、少なくとも、追いすがるチームメイトがいっぱいいっぱいであることは十二分にキミに伝わっただろう。
「バランスがめちゃくちゃで、とくにリアがナーバスだった」(DC談)マシンを操って、前に食らいついていった気迫(それとも意地?)には素直に敬意を表すが、そこでコケてちゃ意味はない。結果、総合2位の座は一歩遠のき、ここ最近下り坂の評価を覆すこともかなわなかった。

先日、JPMに噛みついたという記事を読んで思った。デビの科白は、まるで誰かさんに向かって言っているようだ。
結局のところ、何が何でも、という気迫が最後にものを言う世界なのだ。いい子に徹していたのではF1で成功はできない、という生きた例を、私たちは今まさに見ているのではなかったか。


* Anthony Davidson

私にとってアンソニーは、「琢磨のチームメイト」でしかなかった。
2001年の春にドニントンで初めて会ったときの印象は、「ちいさい、細い、色白、そばかす顔。…本当にF3マシン転がせるの???」という失礼極まりないものだったが、実際、当時の彼は琢磨と比較しても華奢で、どこぞの書生でも充分通じる雰囲気だったのだ。見た目とドライビングが一致しないことはなはだしかった。
次戦オールトンパークで、彼は家族とともにいた。傍から何気なく見ていても、彼が家族を大切にしているらしいことは伝わってきた。ハンガリーGPを見ながら、たとえ最後尾のチームとはいえ息子がF1のシートを確保したと判ったとき、彼らはどんなに喜んだだろう、と思っていた。
夢を抱いて憧れの舞台に辿りついた若者の未来に、幸あれと願う。


* データあれこれ

DCとキミの比較をするため、タグ・ホイヤー提供のオフィシャルデータをあれこれ見ていたときに見つけた小ネタ。カッコ内がデータの存在場所になります。
まずどうしても目についたのが、JPMのトップスピード(Race Speed Trap)。もっとも、彼はこれをベストラップには生かせなかったようだが。一方、スピードはそれほどでもないのに一周を巧くまとめたのはパニス(Race Fastest Laps)だ。リザルトは12位と揮わないものの、ファステストでは3強に次ぐ6位につけた。さすがはベテランといったところか。
圧巻はやはりミヒャで、ファステストはもちろん、各セクタータイム(Race Best Sector Times)、セクター別スピード(Race Maximum Speed)でも、いちばん上に名前がある。どうやら「遊んでた」のは事実のよう。
そしてもうひとつどこか象徴的に感じたのは、各セクタータイムで2番手を揃えていたのがルビーニョでもラルフでもなく、キミだったこと。「次代のシューマッハー」など私は要らないが――かつて次代のセナを必要としなかったように――、若者たちの時代は確かに近づいてきている、と思った。

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