F1は年間17戦をたたかってチャンピオンを決める。だからドライバーはどこのサーキットに行っても、そのレースには基本的に17分の1の価値しかない、という態度を守ろうとする。それでも、やはり母国は特別なのだ。
フェラーリの対応は的確だった。ルビーニョの挽回劇も、乾きはじめた路面でのミヒャのペースも素晴らしかった。ファンとして喜ばしい。
だが、レース中もレース後も、私はどたばたするマクラーレン・ウィリアムズ両陣営のことしか考えていなかった。
いや正確を期するならば、デビのことしか。
「英仏連合軍が、日独伊三国同盟に手酷い侵攻を食らっている」とは、レース中に残したメモの切れ端。
* 言い訳いろいろ。
シルバーストーンはF1を戦う多くのチームにとってホームサーキットであり、年間数多くのテストをこなしている場所である。の、はずが、蓋を開けてみれば今年のGP、年にいちど6月にしかシルバーでテストをしないフェラーリにこてんぱんにしてやられた。
不測の事態が勃発したとき、冷静に対処できるチームと、浮き足だって傷口に塩を塗るチームがある。ミヒャの所属するチームは基本的に前者。どことは言わぬが、英国系のトップ2チームは基本的に後者に分類される。
敗因を単純化するのは趣味ではないが、書き出してみると…
■タイヤ。
ミシュラン・ユーザーの言い訳ナンバー1。はっきりとタイヤがあかんと言っている人は見当たらないが、それとなく「うちのタイヤじゃ無理だった」と口を揃える。
ラップタイムの変動を見るかぎり、言いがかりではない。刻々と変わる路面状況のなかで、選択肢が限られていたのは痛かった。JPMはよく踏んばった。
実は今年、JPMにはかなり期待していたので、最近デュパスキエの顔が微妙に憎い(笑)。
ただし、タイヤ・パフォーマンスが芳しくないのは、タイヤそのものの所為だけではない。その証拠に、同じBSを履いていてもフェラーリに対抗できたチームはない。それだけフェラーリがオフにいい仕事をしてきたということだ。
かつて王様は限られた選択肢にめげずきっちり結果をもぎとって帰った。それを見てきたからこそ叱咤激励したくなる。
■ラジオ。
無線が混乱した、はデビだけでなくサム・マイケル(ウィリアムズのエンジニア)も口にしている。プロの中のプロが集まる仕事場でそんな事態があって許されるのか、と疑問に思ったので某・知人に尋ねてみたら、解答が面白かった。
各チームやメディアの使う無線周波数というのは、GP毎にFIAが決定し通達するのだそうだ。そこには守秘義務があって、誰がどの周波数を使っているかは明かされないし、毎回与えられる周波数は違うという。
さて、ここで問題になってくるのが、FIAが切り分けられる周波数の幅だ。大きなケーキなら分け前も充分だが、もとがこじんまりしていればそうもいかない。そしてシルバーストーンは、殊更その分け前が不充分なサーキットのひとつなのだ。
というのも、シルバーの近くには空軍基地があり、おかげで使用できる周波数は厳しく制限されるからだ。普段のテストならメディアも少ないし観客やゲストもまばらだし、チームもスタッフも限定されるから特に問題ではないが、グランプリともなれば混線は必至で、誰もが自分のところが被害を被らないよう祈るとか。
知人もイタリア語やらフランス語やらが飛び交う無線に頭を抱えたことがあるという。
つまり、某チームや某チームは、今回とても不運だったのだ、というお話。
■天気予報。
雨でレースが荒れると、必ずひとりふたり予報の所為にする人間が出てくる。お粗末な気象予報士に振り回されるのはウィリアムズの専売特許か(失礼)と思っていたら、マクラーレンも見事に嵌った。
これに関しては、何回繰りかえせば気がすむの、と癇癪を起こしたくもなる。
賢い、というよりはそこまでやるかというほど周到だったのが、BARだ。オールソップの記事(Schumacher
the master in treacherous conditions, The Independent, 08/07/02)によれば、D.リチャーズはヘリコプターを飛ばし、上空から天候のゆくえを探った。その執念に脱帽。
■フューエル・リグ
この手のトラブルは、いつまで経ってもなくならない。機械の調子は狂うものだから仕方がないともいえる。ハイテク装備の現代F1の弱点だ。だから、これについてのコメントは省略。
ただ、何度もくりかえすのだけはやめてね、とは思うが。
* 要するに…。
いろいろ言い分はあるだろうが、結局のところ、勝敗の鍵はキミのこの科白に尽きる。
"I think this just upset our usual rhythm."(F1-LIVE:A
terrible afternoon for McLaren, 07/07/02, 文中のthisはピットストップの失敗をさす)
何事にも大事なのはリズム。フェラーリはちっともあたふたしなかった。察するに、BARもだ。
腰を据えたチームが、勝った。あるいは、そうできるだけの心構えを持ったチームが。
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