** Elfin Play **
「まぁ、私に?」
演技ではなく驚きながら、コリーナはちいさな訪問者の差しだした包みを受けとった。
きれいな透かし紙のラッピングの中は、プラスチックのボックスに収まったマシュマロだ。ボックスの蓋がハートを象っていて、可愛らしい。
「嬉しいわ。どうもありがとう」
屈みこんで訪問者である少女と目線を合わせ、頬にキスをする。プレゼントというのはどんなときだって嬉しいから、この言葉は嘘ではない。けれどコリーナには、この少女から贈りものをされる理由が思いつかなかった。
直後、当の贈り主の言葉で謎は解けた。
「パパから、このあいだの、おれいですって。チョコレート、とってもおいしかったです。」
チョコレート。
これまたコリーナには覚えがないことだ。だが、そういうことをしそうな人間なら、知っていた。それも、ごく身近に。
それで、だいたいのからくりは読めたような気がした。
「…ゾーイちゃんのお口に合ったかしら?」
「はい。ごちそうさまでした。」
「……そう。よかったわ、気に入ってもらえて」
ちいさな訪問者は、にこりと笑う。コリーナがとりあえず話をあわせていることには、気がついていないようだ。
(まったく、こんな小さい子をダシにして――ふたりとも困ったものだわ)
内心で溜息をつきながら、けれどコリーナは表向きは完璧な笑顔で続けた。
「よかったらあがっていきなさい。暖かいココアでもどう?」
スイスはまだ寒いでしょ、と優しく誘う言葉に、少女は頭を振る。
「ううん、パパがまってるから、もう行きます。さそってくださってありがとうございます。」
「それは残念ね。なら、また今度ゆっくり遊びにいらっしゃい」
「はい。それじゃ、しつれいします。」
ちいさいけれど、とても礼儀正しい訪問者は、ぺこりとお辞儀をして門の外へ駆けて行った。
微笑みとともにそれを見送ったコリーナは、少女の姿が見えなくなると同時にほうっと息をついた。呆れたように首を振る。
“チョコレートのお礼”のマシュマロと、今日の日付と。ちょうど一ヶ月前の彼女の夫の行動と。
『ジーナとちょっとドライブに行ってくるよ』
突然そう言って出かけた彼は、大きなスイスチョコの箱とともに帰宅した。形式上はジーナからのプレゼント、実態はただの親馬鹿。その“ついで”にと、自分にも一箱買ってきてくれた。気の利く夫、と純粋に嬉しかったのだけれど。
(ようするに、そういうことなわけね)
チョコレートはもう一箱、あったに違いない。
コリーナの瞳にふと、悪戯っぽい光がうかんだ。
夫は今頃、何も知らぬ気に居間のソファでふたりの子供と遊んでいるのだろう。両天秤、などとはよもや思わないが、
(目には目を…ってことで、ちょっとジーナに喋ってもらおうかしらね?)
幼い娘を口実にしたことに関しては、お灸を据えてやらねばなるまい。それにかこつけた多少の意趣がえしは、この際、許されて然るべきだった。
くっくっく、とステアリングを握るサングラスの男は声を殺して笑う。それを、ちいさな少女が助手席で、呆れ果てたまなざしで見ていた。
「もう、いいかげんにしてよね。いきなりドライブだなんて言いだすからなにかとおもえば。せっかくのおやすみが、くだらないイタズラでパァじゃないの!」
「そう怒るなよゾーイ。好きなもの奢ってやるって言っただろ?欲しいものがあったら服でもアクセサリーでも買ってやるし」
「あのね、オンナノコがいつもいつもモノでつれるとおもったら、おおまちがいよ。ママにウソまでついて、ホントとんでもないパパなんだから!」
憤懣やるかたない少女の様子に、男は慌てて笑いを消し、幼い娘に向き直る。
「言っとくけど、最初に約束したからな。ママには内緒だぞ?」
覗きこむようにして共犯を要求してくる不肖の父親を、ゾーイは無表情に一瞥した。
「そんなにママがこわい?」
「怖いとか怖くないとかじゃなくてだな、」
「でも、こわいんでしょ?じゃなきゃ口どめなんてしないものね」
ふふん、と勝ち誇ったように頭をやや反らす姿に、エディはがっくりとうなだれる。
「………おまえ、だんだんマリアに似てきたな…」
そして、そんな彼に向かって少女は高らかに告げたのだった。
「あったりまえでしょ、ムスメだもん。まったく、パパったら、やることがいちいちこどもっぽいわよ。もっとオトナにならなきゃ」
世の中、基本的に男は女に弱い。
ましてや父親たるもの、娘には敵わないものである。
…オソマツ。