++ Little Angel ++
よく晴れた冬の日の昼下がりだった。
玄関のチャイムに、惰眠を貪っていたエディは叩き起こされた。セールスだったら文句のふたつみっつ言ってやろうと思いながら覗き窓を覗いたものの、誰の姿も見えない。
さては悪戯か、あやしみつつドアを開けてみれば、予想していた位置よりずっと下から見上げてくる視線とかちあった。
「Hallo!」
どこかで見た顔だな、と思ったのは一瞬。
「…ジーナ・マリアか……?」
呆然と呟いた彼に、少女はにっこり笑って手に抱えた小箱をずいと差し出した。
「○×▽♯≠□〆∽△!」
「……あ?」
可愛らしい声で彼女が口走ったのは、どうやら早口のドイツ語であるらしく、彼には宇宙語と同じくらい意味不明だった。通じていないと察したのか、ジーナは繰りかえすが、
「○×▽♯≠□〆∽△!」
やっぱり理解不能であるのには変わりはない。
「えぇーと、ジーナ?もーちょっとゆっくり話してくれるかな?そう、その…"langsam"?」
屈みこんで目線を合わせ、へらっと笑って頼みこんでみる。織り交ぜたドイツ語の単語が功を奏したか、ジーナはこくりと頷き、大きく口を開いた。
「Mein Vater lies mich den Kasten geben dir!」
今度は、マインファーター、というのがはっきりと聞こえた。この少女の父、というとそれは。
「…マイケルが、何だって…?」
眉を顰めると、少女は焦れたように小箱を押しつけつつ叫んだ。
「Das ist ein Geschenk! ...Present!」
「あぁ、プレゼントね……って、えぇ…!?」
思わず受け取ってしまい、慌てて聞き返すエディを後目に、ジーナはにっこり笑って小首を傾げ、
「Vater, I, present, you! Auf Wiedersehen!」
ひらひらっと右手を振って、小走りに去っていってしまった。
「………プレゼント…?」
ひとり取り残され、綺麗にラッピングされた小箱を困ったように弄ぶエディの耳に、ばたんとドアの閉まるような音に続いて、遠ざかるエンジンの唸りが響く。つまり、彼女をここまで連れてきたのはおそらくたぶんきっと間違いなく彼のかつてのチームメイトで。
そして、今日は。
「……つまり、どんな顔して会えばいいか判らないから娘をダシに使ったってわけかよ…」
呆れたような、疲れたような、どこか楽しんでるような、かすかに嬉しそうな、複雑な笑みを浮かべてエディは小箱を見た。スイスの、有名な高級洋菓子メーカーの名前が、品のいいリボンに連なって印刷されていた。
Have a Happy Valentine!