斜め読みその@
Eddie
Irvine: Life in the Fast Lane -The Inside Story of the Ferrari Years
■著者: Eddie Irvine (with Jane Nottage) ■発行年: 1999年11月
■体裁: Hardcover ■頁数: 232p. ■ISBN: 0-09-18746-02
■購入場所: ノッティンガム(Waterstones at City Centre)
■購入時期: 2000春
■英語レベル: 簡潔かつ整理されたとてもわかりやすい文体で、生き生きと楽しく読める。が、如何せんスラング(卑語というよりは俗語)や日常的(英国人にとって)な慣用句が続出するので、辞書はあったほうがいい。英語が好きならふむふむと楽しみながら勉強できる…が、憶えた単語を使う際はTPOに十二分に気をつけるべし。
■お勧め度: エディ・アーバインという個人に興味があるなら読んで損はしない。が、ミヒャエル・ファンが読んで楽しいかどうかは謎。少なくとも、エディからみたミヒャエル・シューマッハーという人間の横顔、を垣間見ることはできる。生きた英国英語を知りたいひとにはちょっとオススメ。
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ミヒャエルの事故の結果タイトル争いをするまでに至った99年シーズンの一戦一戦と、彼自身の生い立ち、家族、友人などプライベートとを交互に織り交ぜた構成で、読者を飽きさせない。エディの文体そのものも――監修が入っているとはいえ――非常によく纏められていて読みやすく、楽しみながら一息に読了できる。頭のいい人の文章、というのが第一印象。正直、おもしろい。
内容には、彼の周囲の人々の証言がちりばめられるが、実際にそれら関係者に筆を譲っての執筆であるため、飾らない人物評が得られており、本書に彩りを添えている。とくに、姉のソニアの視線が、いい。子供の頃のやんちゃっぷりなど、微笑ましいなんてものではない。
ミヒャエルのファンにとって、1999年の後半戦は実際かなり奇妙かつ微妙な状況だったといえる。エディに対する態度もファンの間でかなり分かれた。
事故が起きるまでミヒャエルとエディはフェラーリの優勝を軸にした共同体のようなものだった。エディのチーム内での態度も扱いも、あきらかにミヒャエルが存在することを前提としていた。その前提が崩れたのだ。
実は、最初に読んだときには、レース関連の章をきちんと読むことができなかった。怖かった、というのもある。私はエディのことを(あくまでミヒャエル・ファンの立場からではあったにしろ)好きだったから、批判や攻撃をされていたら嫌だという気持ちが、どうしてもブレーキになっていた。
実際には、その心配は杞憂に終わった。フェラーリの首脳陣、とくにトッドへの批判(というか、気に食わない、という感情)はそこここに転がっているが、同じくらいの割合で、ミヒャエルへの心酔っぷり(笑)が語られている。
個人的には、アイルランド紛争についてずっと勉強してきたので、彼の北アイルランド問題に関する私見が印象深かった。彼が本書を執筆した時点で、北アイルランド問題はかなり改善されつつも、一進一退を繰りかえしていた。
彼は、自分は政治にかかわる気はまったくないと言いつつ、これは北アイルランドに生きる者にとって避けては通れない問題だとも言う。たしかに、以前彼は表彰台に掲げる国旗に関して、英国・アイルランドのどちらの国旗でもなくシャムロック(クローバー。北アイルランドの象徴)を掲げたいと言ったことがある。
「強烈な記憶がある。ある日、父が親戚をフォールス街(北ベルファストの紛争中心地区で、紛争の代名詞的な通り。紛争激化時は、道を歩いているだけで狙撃されることも少なくなかった)まで送り届けなければならなかった。そのときは、父が二度と帰ってこないのではないかと、心底恐ろしかったよ。それから、北アイルランドでは商店に入るときにボディ・チェックをされるのがあたりまえでね。俺はずっと、世界中どこでもそうなんだと思っていたんだ。ある日、イングランドへ行く機会があって、買い物に行った。店に入ってボディ・チェックを待ったけれど、誰も来なかった。そのときようやっと、北アイルランドでの俺たちの暮らしぶりが、異常なんだってことに気がついたんだ。」
「個人的には、すべての問題を解決するには、北アイルランドにもネルソン・マンデラが必要だと思っている。彼は人生のほとんどを刑務所内で過ごしたが、解放されたとき、復讐を望まなかった。信じがたいことだ。そしてまさにこの種の行為が、北アイルランドにも必要なんだ。彼のように敵を赦す心を教えてくれる人物なしに、平和は来ない。現時点では、誰も過去を過去として処理して前進する気はなさそうだ。…(中略)… でも、希望はあるよ。若い世代がどんどん育ってきていて、疑問を持ち始めている。どうして無意味な喧嘩を続けなければならいのか、ってね」
ボディ・チェックの話については、この年(2000年)の夏、実際に北アイルランドを旅して、肌で理解した。北ベルファストの街の空気は、あきらかに異質だった。真夏のセール期間だというのに、夕方5時をすぎるとすべての店がシャッターを下ろす。ノッティンガムやダブリンでよく見る格子様のシャッターではなく、中が完全に見えない鉄板形のものだ。マクドナルドとテスコ(スーパーマーケット)だけがまだ営業している街はまだ明るいのに、歩いているのは一見して旅行者とわかる数人だけ。怖くなって急ぎ宿まで戻り、その異質さを宿の人に話した。同意してくれたのは、宿泊客だけだった。宿の人にとって、それはあたりまえの光景なのだ。エディの記した一文を思い出した。「本土に行って、はじめて地元の異様さがわかった」。ここは、そういう場所なのだ。
ほんとうはこの旅行のとき、エディの生まれ故郷であるニュートナーズも訪れようと思っていた。けれど折しも夏のパレードが近づいており、カトリック・プロテスタント両陣営のテンションはぎりぎりまで張り詰めていた。旅行者といえど、何に巻きこまれるかは判らない。それは本能的な判断だった。結局、私は行く先を、より安全な北東海岸沿いに変更した。もうすこし経って、もっと情勢が落ち着いたら、あのとき行かれなかった南の町も巡ってみたいと思う。
備考: 2001年に、ジャガー移籍後について若干加筆されたペーパーバック版が出版されている。
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<もくじ>
前記
1. AUSTRALIA 1999
2. THE FAMILY
3. IMOLA 1999
4. FRIENDS
5. CANADA & FRANCE 1999
6. WOMEN AND CHILDREN
7. SILVERSTONE 1999
8. RACERS
9. AUSTRIA 1999
10. GIRLS, GIRLS, GIRLS
11. MONZA & NURBURGRING 1999
エピローグ: A Trip East
The Title Fight
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