斜め読みそのA


Michael Schumacher - Driven to Extremes


■著者: James Allen ■発行日: 2000年4月
■体裁: Paperback ■頁数: 277p. ■ISBN: 0-553-81214-9
■購入場所: ロンドン (Waterstones at Piccadilly)
■購入時期: 2000冬
■英語レベル: 97、98年シーズンを見ていたミヒャエル・ファンなら、判らない形容詞を飛ばしてもそこそこ内容は掴めるのではないだろうか。英国人としてはかなりシンプルな文体。オクスフォード出身かつ広報畑を歩いてきただけあって、文章や構成は秀逸。
■お勧め度: ミヒャエル好き&97年ヘレスに拘りのある人には絶対オススメ。それ以外の人やアンチにもぜひ読んで欲しい一冊。

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1999年2月発行のハードカバー‘Michael Schumacher - the Quest for Redemption’のペーパーバック版(一部改訂)。ミヒャエルの動向を中心に98年シーズンを振りかえった内容で、『救済を求めて』という原題のとおり、97年ヘレスの'堕ちた英雄'が奈落から立ちあがり再び栄光を取り戻すまでを描く。ファンにとっては痛いが、同時に彼のフェアな視点と淡々とした話運びは救いでもある。

アレンの視点は前書きではっきりと提示される。「私がいちばんよくされる質問は、『シューマッハーってどんな人間ですか』というものだ。答えは‘ひとりの人間’だ。この本が、彼のひととなりを明らかにする手伝いができていればと思う。」
彼はミヒャエルの欠点も美点も長所も短所も、すべてをあるがままに認める書き方をしている。良い、も悪い、もない。ミヒャエル・シューマッハーはミヒャエル・シューマッハーで、ただそこに存在しているのだ。そしてその視点は、他のドライバーやチームの在り方に対しても平等に向けられている。

アレンは最初の5章を、ヘレス事件(とその後始末)の分析に費やす。多くの証言や証拠を並べ、さまざまな可能性を提示しつつ事件の全容を――事実をあきらかにしようと試みる。ここで語られるアレン本人の私見は、疑問点のみだ。つまり、なぜミヒャエルとヴィルヌーヴはあそこでクラッシュしたのか。なぜそれがあれほどの騒動に発展したのか。汚点、は、どうしても避けられなかったのか。
2000年の時点で私はまだヘレスを消化しきれておらず、その主たる原因は、おそらく『放映がCMに入っていた間、実際には何が起こっていたのか』がわからなかったからだった。こちらの頭が混乱しているうちに、あれよあれよという間に事件は起こった。事件後騒がれたのはモラルの問題ばかりで、感情的な批判か弁護しか目にすることはできず、空白の数周は空白のまま放置された。なぜ、衝突そのものがそこまで非難されなければならないのかもよく解らなかった。よくないことだとは自分自身感じたけれど、人間性まで疑われなければならない必然性は思いつかなかった。
今になって思えば、『なぜ彼がそんなことをしたのか』という問題は、私にとってさほど意味を持たなかったのだろう。『何が原因でそんな事態が起きたのか』、『どうして彼はあれほどまでに叩かれねばならなかったか』、そっちのほうがずっと大事だったのだ。大事だったのに、誰もヒントすらくれなかった。だから、アレンの分析は私にとっても目から鱗で、救われた気がした。

英国で、ミヒャエルの悪評について真正面からとっくみあった著作は、たぶんこれがはじめてではないだろうか。英国人にとってミヒャエルが『傲慢で自分勝手で強引』なのはあたりまえで、彼らは普通それ以上にミヒャエルを分析しようとは思わない。ヒトラーの第三帝国になぞらえて、風刺して、終わりだ。アレンはそこに切りこんだ。伝記のようにおもねるわけでもなく、タブロイドのようにあざけることもなく、ひとりの普通の人間としてのミヒャエルを図解しようとした。最初の発行時期を考えれば、ある種の賭けだったような気もする。
アレンは、疑問に対する明確な答えを示さずに本書を締めくくる。彼個人の解釈も感想もない。あるのは、事実の羅列と、そこから浮かび上がってくる可能性だけ。それでもいろいろな他の情報と組み合わせて考えたときに、もしかしたら、と思えることはある。
彼の書き方は容赦がなく臨場感にあふれているから、平然とは読めない。否応なく当時の空気や感情にひきずられ、通勤途上で何度も泣きたくなるほどだった。ただ、それだけに読了の満足感もひとしおだったのだろう。

備考: 著者のジェームズ・アレンは、オクスフォード大学出身で、ブラバムの広報として1990年にF1界に入った。その後、英オートスポーツ誌のニュース編集を担当。2年後、ITVに移り、ナイジェル・マンセルのインディ挑戦を報道した。1997年にピットレポーターとしてF1に復帰すると、鋭くかつユーモアに溢れる語り口で人気を獲得、2001年、マレー・ウォーカーの引退に伴いマーティン・ブランドルと組んで実況を担当するようになる。著書には本書のほか、共著でナイジェル・マンセルの伝記がある。

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<もくじ>
 前記
 1. The Edge of Greatness
 2. Jerez Part One
 3. Jerez Part Two
 4. The Backlash
 5. The Quest for Redemption
 6. Behind the Headlines
 7. The Real Michael Schumacher
 8. The Pele of Formula 1
 9. Fear and Loathing - F1 Style
10. Formula 1 Life in a Day
11. Planet Michael
12. The Cold War
13. Made in Italy
14. The Exquisite Agony
15. The Sprint Finish
16. The Understudy
17. Sidelined
18. Extreme Tolerances


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